夢物語【完】
「しっかし、でっかい家!」
「坪だけで100くらいあって、その半分はスタジオだって。あとは寝る場所もシャワーも付いてて普通の家にスタジオ完備らしいですよ」
外観は本当に普通の家で窓もあるし、カーテンが開いてる部屋からリビングが見える。
インターフォンを押して暫くすると「いらっしゃい」と悟さんが迎え入れてくれた。
「涼ちゃん、久しぶりだね」
「お久しぶりです。練習中にすみません」
二人ならいつ来たって大歓迎だよ、と優しく微笑み、「もう少しで終わるから、あっちの部屋で待ってて」と外から見えたリビングに案内するとスタジオに戻っていった。
「普通の家やね」
「ですね」
興味津々のあたし達は冷蔵庫を拝借してからリビング、キッチン、バスルームなど部屋の隅々をチェックして、棚から勝手にカップを取り出し人数分のコーヒーをたてて、先に二人で頂いた。
「涼介の家に泊まるより、こっちの方が断然広くない?」
「それ私も思いました!床暖も付いてて快適ですよね」
さすが、店長。
お金の使い方が素晴らしい。
部屋の繋ぎ目を無くして、キッチンからはリビングが見渡せるようになってる。
ドアの向こうはバスルームと部屋、その奥にはスタジオになってるんやろう。
あれ以来、仲良くなった店長に昔の話をちょっと聞いた。
昔は高成と同じバンドマンで、ドラマーやったらしい。
あたしは知らんかったけど、有名な作詞家らしい。
今でもちょいちょい書くらしいけど、どの曲かは教えてくれんかった。
「少し前までは“愛の巣”だったらしいですよ!」
陽夏ちゃんがテンション上げて話す時は必ず恋愛系。
カップを握りしめてニコニコしてる。
それにしても“愛の巣”って。
「誰と誰の?」
「そりゃ、中塚さんと中塚さんの彼女さんですよ!」
綺麗な方だそうですよ!と更に興奮する陽夏ちゃんは「中塚さん、素敵ですもんね」とキラキラした瞳で言う。
そういう感性って人それぞれやでな...と冷静な自分が少し嫌になった。
「世津との愛の巣ね」
「知ってるんですか?」
「うん。こないだ会わせてもらって、仲良くなった」
「えー!すごいじゃないですか!」
興奮状態の陽夏ちゃんは全てを聞き出そうと、名前、顔、雰囲気、性格、店長と二人でおるときの感じ、・・・その他もあったけど、忘れるくらいの質問攻めにあった。
「何の話してるの?」
そうしてる間にメンバーは練習を終えてリビングに集まってきた。
悟さんが椅子に掛けたとの同時に陽夏ちゃんが今までの話を語りだしたから、あたしは席を立ってメンバー分のコーヒーを入れる。
棚には何人分あんねんってくらいのマグカップが揃ってる。
「俺も手伝うわ」
「ええよ、ええよ。座って待ってて」
「でも全部持てへんやろ」
前髪を入れてハーフアップにしてる涼介が二つカップを持ってくれてリビングに向かうと陽夏ちゃんの話に付き合う悟さんにカップを渡と「ありがとう」と言って、再び陽夏ちゃんの話に戻る。
相変わらず、悟さんは陽夏ちゃん担当で忙しそう。
彼氏はそれを目の端で確認しただけでスルーしてたのをあたしは見た。
自分のカップを取ってからテレビの前に座ってる高成と京平にあたしと涼介から一つずつコーヒーを渡す。そして、高成の隣に座った。
「ありがとう。ここまで遠かっただろ」
「全然。でも家のデカさにはびっくりした」
「スタジオには見えないよな」
高成も苦笑する。
確かにここがスタジオには見えん。それに完全な防音設備で少しも気にならんかった。
これなら近所迷惑にもならんし最適な場所に違いない。