あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「両家の婚約を破棄させていただきたいのです」

「……ご提案、謹んでお受けしよう」


久しぶりに会った父が、本当に申し訳ない、と頭を下げるのに合わせて、目を伏せたまま、わたくしも深く頭を下げた。

これが三度目の婚約破棄だった。


視線で促されてそっと退出すると、まだ宴が続いていて、賑やかなざわめきが眩しい。


ため息をぐっとこらえる。


今は宴の最中だった。


公爵家の裕福ぶりを見せつけるためにあつらえられた華やかな宴を抜け出して、うつくしく整えられた中庭に出る。じわりとにじんだ涙に夜風が冷たかった。


……また、わたくしのせいで。お優しい方だったのに。


相手の家にはもう男性がいない。ご子息が三人いたけれど、みんな戦で殉死した。


結婚はあくまで家同士のもので、いわゆる政略結婚だった。


相手の家の長男と婚約。婚約者が死ぬと次男、次男が死ぬと三男に、婚約が引き継がれていく。

それでももう、三男もいない。


そろりと向けられた、気味が悪そうな視線を思い出す。伺うような遠巻きなそれは、ひどく胸を突いた。
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