あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
珍しい父からの呼び出しに応じて出席し、しばらくして別室に案内され、中で待っていた父と子爵に正式に婚約者の殉死を知らされた。


次いだ言葉も至極当然のものだった。


申し訳ないが、もう婚約を維持できないこと。家同士はできればこれからもよろしく、ということ。


家の存続のため養子を取るらしかった。


では、なぜその養子と婚約させないのかと言えば——わたくしに、悪い噂が立ったから。


何もおっしゃらなかったけれど、そのくらい嫌でも耳に入ってくる。


婚約した三人は三人ともが殉死した。わたくしと婚約した順に、婚約後の兵役でお役目を果たして。


瞬く間に不吉な女だと噂が立った。


あの令嬢のせいでは。

呪われているのでは?

魔女ではないのか。

……そういえば、あのご令嬢は黒髪ではなかったか。


——曰く、呪われた令嬢。魔女。


もともと不名誉なことを言われていたけれど、今回の件からさらにそんな噂がまことしやかに囁かれるようになって、どんなに領地が豊かでもわたくしと婚約したい人は急激に数を減らした。


公爵家令嬢なのだから、本来は家格が釣り合う方との結婚が望ましい。


家柄のおかげでなんとか見つけた相手だった。子爵だってこちらの領地目当てで、表面上は優しく接してくれたけれど、ご子息たちは嫌がっていたのだ。
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