あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
早く引っ込みたかったけれど、父の許しがないのに勝手な行動をするわけにはいかない。余計な波風は立てたくない。


でも、何度も繰り返される、密かで刺々しく口さがない噂話に疲れてしまって、人混みから離れようと、素晴らしいと評判の薔薇園に向かった。


迷路のように入り組んでいるそうだから、人に見つかりにくいはずだ。あまり奥まで行かなければ一人でも帰って来られるだろう。


宴はしばらく続くはず。少しだけ、少しだけ一人になりたかった。


せめてもの意地で背筋を伸ばして薔薇園に近づき、一つ目の角を曲がったところで耐えきれずに顔が歪んだ。


慌てて背の高い薔薇の陰に隠れる。真っ赤な花の美しさが惨めな気分をかき立てた。


……どうして、わたくしは不幸ばかりを呼び込んでしまうんだろう。どうして。


泣き声を上げないように唇を引き結んで浅い呼吸を繰り返していると、がさりと音が鳴った。


肩が跳ねる。泣き濡れた吐息は聞こえただろうか。


立場がどうあれ、女性からは声をかけられない。相手が誰かも分からないのだ。


公爵家だと大抵は相手より身分が上になるので、ささいな手順は問題ない。


でも確か、箔をつけるために、今回は招待客に王族も含まれていたはずだった。

身分が下の者が上の者に声をかけるなんて、不敬罪まっしぐら。礼儀を欠いて処罰など受けてはたまらない。


息を潜めてじっと待つ。


……できることなら、気づかれていないといいけれど。
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