あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
二人で過ごすうちに、自然と流れができた。二人だけの約束ごとが増え、挨拶が馴染んで手慣れたものになった。

お互い頑なに敬語だけは崩さないでいるけれど、砕けた口調にしたくなるのは時間の問題だろう。


毎日楽しくて楽しくて、夢みたいで。

夢をかたどることの、えも言われぬ幸福感を、なんと言えばいいのだろう。


アンジー。アンジェリカ。


天使だなんて名前が嫌いだった。好きになれなかった。それでも、ルークさまに呼ばれると、なんだか好きになれそうな気がしてくる。


「……ンジー。アンジー?」


突然節の高い指が頬を撫でて、思わず肩が跳ねる。


こういうことは度々あった。

その動きが急だったわけでも、視界に入らなかったわけでもないのに、このひとの身のこなしは独特で、時に動作を動作として認識できない場合がある。


「もう、声くらいかけてくださればいいのに」

「かけましたとも。……どうなさったのですか。何か、怖い夢でも?」

「いいえ」


——怖いくらい、幸せな夢を見るのです。


夢ですか、と困ったように笑ったうつくしいひとは、頬を撫でた指が乾いているのにむしろ驚いた口調で呟いた。


「泣いていらっしゃるのかと思ったのですが……」

「まあ、いやですわ」


くすりと笑いがもれる。笑えたはずだった。


「幸せな夢を見るのだと、申し上げましたでしょう」


ああ、どうか。お願いだから。


こわいくらいと言ったのは、気がつかないふりをして。
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