あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
2
二人で過ごすうちに、自然と流れができた。二人だけの約束ごとが増え、挨拶が馴染んで手慣れたものになった。
お互い頑なに敬語だけは崩さないでいるけれど、砕けた口調にしたくなるのは時間の問題だろう。
毎日楽しくて楽しくて、夢みたいで。
夢をかたどることの、えも言われぬ幸福感を、なんと言えばいいのだろう。
アンジー。アンジェリカ。
天使だなんて名前が嫌いだった。好きになれなかった。それでも、ルークさまに呼ばれると、なんだか好きになれそうな気がしてくる。
「……ンジー。アンジー?」
突然節の高い指が頬を撫でて、思わず肩が跳ねる。
こういうことは度々あった。
その動きが急だったわけでも、視界に入らなかったわけでもないのに、このひとの身のこなしは独特で、時に動作を動作として認識できない場合がある。
「もう、声くらいかけてくださればいいのに」
「かけましたとも。……どうなさったのですか。何か、怖い夢でも?」
「いいえ」
——怖いくらい、幸せな夢を見るのです。
夢ですか、と困ったように笑ったうつくしいひとは、頬を撫でた指が乾いているのにむしろ驚いた口調で呟いた。
「泣いていらっしゃるのかと思ったのですが……」
「まあ、いやですわ」
くすりと笑いがもれる。笑えたはずだった。
「幸せな夢を見るのだと、申し上げましたでしょう」
ああ、どうか。お願いだから。
こわいくらいと言ったのは、気がつかないふりをして。
お互い頑なに敬語だけは崩さないでいるけれど、砕けた口調にしたくなるのは時間の問題だろう。
毎日楽しくて楽しくて、夢みたいで。
夢をかたどることの、えも言われぬ幸福感を、なんと言えばいいのだろう。
アンジー。アンジェリカ。
天使だなんて名前が嫌いだった。好きになれなかった。それでも、ルークさまに呼ばれると、なんだか好きになれそうな気がしてくる。
「……ンジー。アンジー?」
突然節の高い指が頬を撫でて、思わず肩が跳ねる。
こういうことは度々あった。
その動きが急だったわけでも、視界に入らなかったわけでもないのに、このひとの身のこなしは独特で、時に動作を動作として認識できない場合がある。
「もう、声くらいかけてくださればいいのに」
「かけましたとも。……どうなさったのですか。何か、怖い夢でも?」
「いいえ」
——怖いくらい、幸せな夢を見るのです。
夢ですか、と困ったように笑ったうつくしいひとは、頬を撫でた指が乾いているのにむしろ驚いた口調で呟いた。
「泣いていらっしゃるのかと思ったのですが……」
「まあ、いやですわ」
くすりと笑いがもれる。笑えたはずだった。
「幸せな夢を見るのだと、申し上げましたでしょう」
ああ、どうか。お願いだから。
こわいくらいと言ったのは、気がつかないふりをして。