あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
満月を三度は一緒に迎えた頃、やはり真夜中に扉を叩いたルークさまは、どこか思い詰めた様子で椅子に座った。
「ルークさま、何かありましたか」
「いえ……」
うつむきがちに何度も言いよどむのを、辛抱強く待つ。
「ルークさま」
呼びかけに、ゆらりと視線が上がった。
「アンジー」
「はい」
「……ルークと、呼んではくださいませんか」
「ご冗談でしょうか」
即答していた。即答以外の選択肢がなかった。
わたくしたちの関係で、立場で、それ以外に言えることはない。
こちらの答えを予測していたような顔で、うつくしさの化身が笑う。
翠の瞳がすがめられ、ため息がひとつ落ちた。
「相変わらずつれないお方ですね。敬称はいりませんと——あなたと、敬称などいらない関係になりたいと、申し上げているつもりなのですが」
返答を間違えてはいけない。今わたくしは、薄氷の上を渡っている。
居心地のよい間柄が続くか、逆賊よろしく身を落とすか、という薄氷の上を。
「ルークさま。今でしたらまだご冗談にできますわ」
「私は冗談になどしたくありません」
「わたくしは冗談にしたいのです。……お許しくださいませ」
わかっていて許せなんて言ったわたくしに、ルークさまは顔を歪めた。
「ルークさま、何かありましたか」
「いえ……」
うつむきがちに何度も言いよどむのを、辛抱強く待つ。
「ルークさま」
呼びかけに、ゆらりと視線が上がった。
「アンジー」
「はい」
「……ルークと、呼んではくださいませんか」
「ご冗談でしょうか」
即答していた。即答以外の選択肢がなかった。
わたくしたちの関係で、立場で、それ以外に言えることはない。
こちらの答えを予測していたような顔で、うつくしさの化身が笑う。
翠の瞳がすがめられ、ため息がひとつ落ちた。
「相変わらずつれないお方ですね。敬称はいりませんと——あなたと、敬称などいらない関係になりたいと、申し上げているつもりなのですが」
返答を間違えてはいけない。今わたくしは、薄氷の上を渡っている。
居心地のよい間柄が続くか、逆賊よろしく身を落とすか、という薄氷の上を。
「ルークさま。今でしたらまだご冗談にできますわ」
「私は冗談になどしたくありません」
「わたくしは冗談にしたいのです。……お許しくださいませ」
わかっていて許せなんて言ったわたくしに、ルークさまは顔を歪めた。