あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
わたくしは軍人ではないから、その重責を全てわかることはできないけれど。


「ルークさま」

「はい」


……あなたさまをルークとは呼べません。ただ、隠れ家だけは、あるのだと。


「わたくしは、いつでも小道を踏み固め、戸に油を差し、食器を磨いて、美味しいお菓子とお茶をご用意しておきますわ」


ルークさまは眩しそうに目を細めた。


「……あなたは私に甘すぎる。その優しさに私が漬け込んだらどうするんです」

「あら、無花果の蜂蜜漬けは大好物ですよ。いつでも漬け込みにいらしてください」


はは、と笑い声が響く。


「ええ、是非。今度お邪魔するときは大樽いっぱいの蜂蜜を抱えてこなくては」


……全く、あなたにはかなわないな。


小さな呟きは、聞こえなかったふりをする。


あなたさまの未来に血の匂いなどいらない、行かないでほしいと言えたらよかったのに。


でも、そんな無責任なことは言えない。このひとはきっと、軍人であることに誇りを持っている。

代わりに頷くことはできるから。わたくしにできる約束なんて、これくらいしかないから。


せめて、叶えられる約束くらいは結びたかった。
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