あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「……アンジー」

「なんでしょう」

「あなたに刺繍をお願いしても、いいですか」

「刺繍ですか」


おうむ返しをしたわたくしに目を合わせて、はい、と頷く。ひどく真面目で熱を帯びた瞳が、こちらをしかと見つめている。


「あなたは以前、刺繍が得意だとおっしゃっていたでしょう。簡単なもので構いません。ただ、しばらく遠出をするものですから、何かよすがが欲しいのです。もちろんお代はお支払いします」


簡単なもので、ですって。


自分の眉が吊り上がるのがわかった。


「……どうしてもっと早くおっしゃってくださらないのですか」

「い、言い出しにくくて」

「刺繍は時間がかかりますのに!」

「ですから簡単なもので」

「馬鹿なことをおっしゃらないで」


ぴしゃりと言った。詰るようだった。


「わたくしが刺繍したものを、持ち歩いてくださるのでしょう」

「……はい」

「遠出というのは、何日もお会いできないということでしょう」

「はい」


これはお答えにならなくてもよろしいですが、と前置いて口を開く。機密かもしれないので、無理は言えない。


「わたくしに刺繍をお頼みになるということは、……危険な、ところに、お出かけなさるのでしょう?」

「……はい」


ルークさまが答えられるということは、公に、大々的に発表される危険な行為だということで、つまりは栄誉なことで、隠しようもなく危険なところに行くということだった。

彼の腰の剣がその場所を教えてくれる。言うまでもなく戦場である。
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