あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
これで伝わらなかったらどうしよう、と思いながら言い直すと、ためらいがちに、アンジー、と静かに呼ばれた。

「はい」

「実は……あなたに罪を着せようとする者たちがおります」


苦しそうにこちらを見遣るので、ことさら明るく笑ってみせる。


大丈夫。わたくしは、このくらいでくじけたりしない。


「存じております。敵国にわたくしの首を売れば丸く収まると思っている方たちのことでしょう?」

「魔女だなんて、そんな御伽噺を本気で信じている愚か者たちです」


ルークさまは普通にお話してくださるから忘れそうになるけれど、わたくしは忌子。噂ばかり先行して誰もに恐れられる死神。おぞましき呪われ令嬢。


あの女の仕業だ。あの令嬢を引きずり出せ。あの魔女めを懲らしめれば。

そういう動きがあるのは知っていた。魔女狩りは、いつの時代も起こりうるらしい。


「……アンジー。アンジェリカ。あなたはこんなところで終わってはいけない」


揺れてかすれた低い声。

そっと手を取られた。こちらに触れた指先が、燃えるように熱い。


「いくさが終わったら、どうか、私とともに来ていただけませんか。安全なところに匿って差し上げます。……私はあなたの、生きる理由になりたい」

「まあ。随分わたくしを買ってくださるのですね。光栄だわ」


匿ってもらって、刺繍でもして暮らすのは、とても穏やかそうだった。しあわせになれそうな気がした。


でも。ありがとう存じます、と呟いてゆっくり微笑んだ。笑えているはずだった。
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