あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「あなたさまに攫われるのは、父に報い、わたくしが必要なくなったときです。仮にも公爵家の娘、ましてやわたくしはあの呪われ令嬢ですもの。この首を欲しがるお方は現に大勢いらっしゃいますわ」


せめて、窮地には選択肢になりえたいとずっと思ってきた。

わたくしの首で代われる誰かや何かが、きっとあると。そのときにこそ、わたくしはこの国を出奔しようと。


「今、わたくしが差し出せる最大の価値あるものは、この身にございましょう。……この首一つで戦が収まり、平和が訪れるのでしたら、安いものですわ」

「何もあなたがそのような、」

「いいえ。……いいえ。これは、わたしの望みなのです」


初めて人前で自分をわたしと言ったわたしに、ルークさまは、アンジー、と泣きそうな顔でわたしを呼んだ。


「ルークさま。わたくしは……父や公爵領の領民や、この国や、世界の平和のため、ましてやあなたさまのために死ぬのではありません」


どうぞ勘違いなさらないでくださいませ、とわざと感じの悪い言い回しをした。


「わたくしは。父やこの国や、あなたさまを想うわたくしのためにこそ、死ねるのです」


大丈夫、と思った。いざというときに死ぬのは怖くない。


わたしの死ぬ瞬間、そのたった一瞬だけでもわたしの命に価値がある限り、わたしの死は永遠に無駄にならない。


語り継がれなくても、わたしが胸を張って散れるのならば、それだけで意味がある。忌子であった、意味がある。
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