あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「それとも、あなたさまがわたくしの望みを叶えてくださいますか。あなたさまがこの国を救い、豊かにし、世界を永遠に平和にし、この領地を潤し、そのうえでわたくしを攫ってくださるのですか」


明確な諦念がにじんだ問いかけに、ルークさまはぎりりと唇を噛んだ。


「……友好条約を結びます」

「条約とは得てして破られるものですわ。現に隣国は、我が国に攻め入ろうとしております」


破れない条約はない。必ずと言いきれるものもない。


固い意思で言い募ると、やはりあなたは得難いお方だ、と呟きが落ちた。


「嫌ですわ。あなたさまこそが得難いお方です、殿下」


美しいかんばせがくしゃりと歪んだ。


「気づいていたのか」

「……ええ。どうか今までのご無礼をお許しくださいませ」


処罰はいかようにでもお受けいたします。ですが叶うなら、どうぞすべての咎はわたくし一人に。


「処罰などさせないよ」


ふてくされて頑なな声に少し笑って、両手でドレスの裾をつまんで膝を曲げる。


このひとの人柄が分からなかったから、家族などいないと言った。家名は名乗らなかった。


でも、きっと名乗っても大丈夫。そんな保身よりも誠意を尽くしたいと思った。


頑なに外さなかったヴェールを、ゆっくり取り払う。


「お初にお目通り賜ります。チェンバレン公爵が娘、アンジェリカ・チェンバレンと申します。……お目にかかれて光栄に存じます、殿下」
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