あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「私は、このような形であなたのお顔を見たかったわけではなかったのだけれど」


あなたが、私に心を許してくれたらと。そのときに、私がヴェールに触れるのを許してくれたらと、思っていたよ。


「わたくしの許可は必要ありません、殿下。どうぞご随意に」

「……だから名乗らなかったのになあ」


ええ、ええ、そうでしょうね。このひとはそういうお方だもの。


初めから気づいていた。


このうつくしいひとは、あまりに全てがうつくしい。


所作も、身なりも、何もかもがあまりに洗練されすぎていた。そうしてときどき、言葉が乱れた。


『ルークと呼んでくださいと、言ったつもりだったのですが』


あの日、本当に身分を偽るつもりなら、徹底的に身分をごまかすつもりなら、こう言わなければいけなかったのだ。

どうかルークとお呼びくださいと、申し上げたつもりだったのですが、と。


ルーカスは今代の英雄の名だった。


金の髪に青空のような翠の瞳は、この国では王家のみに現れる特徴で、王の血が流れる証。少しくすんだ金の髪が第三王子の特徴だった。
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