あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
有能な後継たらんとして育てられた一の兄と、その有能なスペアたる二の兄と、可愛らしく聡明な姉の、末の弟として生まれたお方。


スペアはもういらない、では何でその価値を示すか。


答えは簡単だ。


使いやすくて、有能で、けれどもけして邪魔をしない臣下という、国にとっての駒になることによって。


国政は兄の領分。ならばいくさを、と考えるのはおかしなことではない。幸いこの方には剣の才があった。


いくさで頭角を現してからは、周囲から担がれないようにか、政のわからぬおひとよと一際噂が増した。

あまり頭がよいところを見せては足元を掬われると思ったのだろう。


ただただ剣を振るうことしかできないひと。適度に頭が悪くてときおり鋭くて、いくさの采配はけして間違えず、それでいて担ぐには面倒なお方。

いくさは常勝だけれども、駆け引きは下手。少しだけ粗野。

いくさに引っ張りだこで、なかなか集まりには顔を出さない。顔を出しても、必要最低限の挨拶を終えるとすぐにいなくなるという。


そんなふうに、あまり評判を落とさずに周囲を遠ざけている。


このお方は、生来の能力と類稀なる才と、手探りで築き上げたのだろう仮面によって、今まで生き延びてきた。


戦略を考えられるお方が、部下に慕われるお方が、何もわからないわけはないのに。


周到な建前と仮面の前では、周囲は強引にごまかされることしかできない。


そうして築いた地位が、このお方の安寧だったのだと思う。戦場にいる方が、きっと、王城にいるよりマシだったのね。


すべてを演じることの、息苦しさはいかほどでしょう。
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