あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
この国、ヴァントーズ王国の王族は、お名前・お名前・立場・継承権・国名が正式な名前になる。


だからルークさまの本当のお名前は、ルーカス・レオンハルト・オースティン・ディン・ヴァントーズさま。


一つめのお名前は親しいひと、つまり王族やルークさまが認めた方々がお呼びする際に使う。二つめのお名前は王族以外がお呼びするのに使う。

オースティンもしくはオーウェンは、戦士や騎士などの戦うひとを指す。

ディンは継承権第五位のひとにつけられて、何かあったら当然次の第五位のひとに譲られる。ヴァントーズは国名。


だから、彼が最初に名乗ったオーウェン・ルーカスはほとんどそのままで、その髪と目の色も相まって、偽名だってバレバレだった。


そもそもオーウェン・ルーカスならオーウェンが名前になるはずなので、愛称がルークなのはおかしい。家名を愛称にするひとはあまりいない。


ルーカス・オーウェンならまだよかったかもしれないけれど、それだとすぐに英雄を思い浮かべられてしまう。


だから苦肉の策だったんでしょう。でももっと全然違う名前だったら、色が曖昧に見えたあの暗さなら、気づかなかったかもしれないのに。


とまあこんな感じで最初からバレバレだったので、むしろルークさまに偽名を名乗る気がなかったとしか思えない。

ああ、ルークさまではなくて、レオンハルトさまとお呼びした方がいいかしら。


「恐れながら、レオンハルトさま」

「アンジー。私のことはルークと」

「…………ルークさま」


ありがとう、とだけ言って、静かにこちらを見つめる。


「わたくしは、それほど愚かに見えますでしょうか」

「いいや。あなたはいつでも聡明でいらっしゃる」

「光栄ですわ。ありがとう存じます」


見間違いだって思いたかった。

でも、何度確認しても、その髪は金色に輝き、その瞳は空が映り込んだようにうつくしく青かった。
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