あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「今まで通りに話してくれないかな。せめて殿下とは呼ばないでほしいのだけれど」

「はいめ」

「頼むから。頼むから、拝命などとは言わないで。これは命令ではないけれど、お願いだから、もう少しだけ砕けてほしい」

「承りました」

「ありがとう」

「いえ」


うまく言葉を返せなかった。


王族のお願いは、どうしようもなく命令に成り果てる。たとえ相手が嫌だと言っても。


「王子に望まれているとわかっていて、それでもなびかなかったのだね、あなたは」

「ええ。権力に興味はございませんので」

「……ひどいなあ。ね、アンジー。独り言を、聞いてくれるかな」

「はい」

「私はいくさが恐ろしいよ。ひとを殺すのが恐ろしい。いっそ……」


黙り込んだルークさまの続きを引き取る。


「いっそ、呪いでも欲しいほど、ですか」


ルークさまがハッと目を見開いた。


それは。わたくしがあの呪われ令嬢だということを、呪われ令嬢はどんな娘かを、やはり知っているということだった。


「……ご存知でしたの。今からでもお帰りになりますか? 呪われた女なんて不吉でしょう」

「呪いというのは、そう言い伝えられているだけで、実際に呪いのせいで被害が出たわけではないのだったね」

「ええ。でも、大抵の忌子の母親は、忌子を産んでしまった罪悪感で気が触れます」


母もそうだった。


呪いがあってもなくても、結果は結局それほど変わらない。

検証されないのはそのせいだ。どちらにせよ、黒は嫌われるし、疎まれる。


「悪評が立って一族が不幸になることも多くあります。呪いではないかもしれませんが、これで忌子を恨まないひとはおりません」

「いるよ。恨まない者は、ここにいる」


喉が詰まる。そっと吐き出した吐息は不恰好に泣きぬれていた。
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