あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
膝まづいたルークさまに、す、と手を取り直された。目が合ったから、涙の跡がきっとまるわかりだっただろう。


アンジー、とどこまでも優しい声が、微笑みとともにゆっくりわたくしを呼ぶ。


いとおしさをかき集めて煮詰めたような、甘い呼び声だった。


落とされた唇が手の甲をかすめる。略式の騎士の誓い。この方は、王族である前に、軍人なのだ。


「約束をありがとう」

「……いいえ。いいえ」


大丈夫。あなたを決して、死なせはしない。


「行ってくるよ。私の剣にかけて、必ずあなたとこの国に安寧を」

「ご無事をお祈りしております」

「ありがとう。無事に戻って来たら、一番にただいまを言いに来なくてはね」

「まあ。いけません、国王陛下にご報告なさるのが先ですわ」

「……後回しにしたいな、それは」


冗談だと思って笑い飛ばしたのに、結構本気の声色だった。え。


「ああ、それから」


扉を開けかけたルークさまが、何気なくこちらを振り返る。


アンジー。アンジェリカ。


「随分前から、あなたは私の一番大切なひとだよ」


微笑みを置いて、英雄は戦地に赴いた。
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