あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
3
それからは、ただひたすらに祈るしかなかった。
ルークさまが今回のいくさで勝てなければ、わたくしが生贄になる。そういうことだった。
……ひどいひと。お恨み申し上げます、と呟いた声さえ届かぬまま。
英雄のハンカチに刺繍したということで、わたくしの刺繍は少し価値が上がった。名前を隠したままなせいで、上がってしまった。
ルークさまを取り巻く環境は混迷を極めて厳しさが増しているのに、わたくしひとり、のうのうと生きている。
ルークさまがくれた、安定した生活だった。
あのうつくしいひとを思うと、水辺に横たわる草のようにまつげがぬれてくる。
わたくしは、こういうときにこそ無力なのだ。
貴いお方は、抱えきれないほどの財と権力を与えられる代わりに、この世でも随一の重圧や不自由、血なまぐささと、隣合わせで生きることを決められる。ひとつの間違いも犯せずに。
王族には清濁併せ呑むだけの度量が求められるという。
呪われ令嬢としてならいい。でもわたくしを、あの優しいひとに、アンジェリカとして使わせたくなかった。
夜、耳慣れない物音で目が覚めた。そっとまぶたを開けると、ベッドの周りをぐるりと数人が取り囲んでいる。
その手には、武器。
「……皆さま、呪われ令嬢の容姿をご存知でしょうか」
振り下ろされるのを警戒してとっさに話しかけてしまったけれど、相手は付き合ってくれるらしい。
「夜のような黒髪に、血のような赤い瞳の女だろう。ちょうど、お前のような不吉な色をした」
「ええ、その通りですわ」
この身はまさしく不吉な色をしている。
「それでは、皆さま。呪われ令嬢の身柄が、隣国との取引に使われる予定であることは、ご存知でしょうか」
ルークさまが今回のいくさで勝てなければ、わたくしが生贄になる。そういうことだった。
……ひどいひと。お恨み申し上げます、と呟いた声さえ届かぬまま。
英雄のハンカチに刺繍したということで、わたくしの刺繍は少し価値が上がった。名前を隠したままなせいで、上がってしまった。
ルークさまを取り巻く環境は混迷を極めて厳しさが増しているのに、わたくしひとり、のうのうと生きている。
ルークさまがくれた、安定した生活だった。
あのうつくしいひとを思うと、水辺に横たわる草のようにまつげがぬれてくる。
わたくしは、こういうときにこそ無力なのだ。
貴いお方は、抱えきれないほどの財と権力を与えられる代わりに、この世でも随一の重圧や不自由、血なまぐささと、隣合わせで生きることを決められる。ひとつの間違いも犯せずに。
王族には清濁併せ呑むだけの度量が求められるという。
呪われ令嬢としてならいい。でもわたくしを、あの優しいひとに、アンジェリカとして使わせたくなかった。
夜、耳慣れない物音で目が覚めた。そっとまぶたを開けると、ベッドの周りをぐるりと数人が取り囲んでいる。
その手には、武器。
「……皆さま、呪われ令嬢の容姿をご存知でしょうか」
振り下ろされるのを警戒してとっさに話しかけてしまったけれど、相手は付き合ってくれるらしい。
「夜のような黒髪に、血のような赤い瞳の女だろう。ちょうど、お前のような不吉な色をした」
「ええ、その通りですわ」
この身はまさしく不吉な色をしている。
「それでは、皆さま。呪われ令嬢の身柄が、隣国との取引に使われる予定であることは、ご存知でしょうか」