あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
王は、頂点だ。下には必ずひとがいる。その中には、王位を狙う輩もいるかもしれない。


「王は窮屈だよね。王位を狙われることに、一生怯え続けなくてはいけない。王位を狙う手段はいろいろあるけれど、多いのは弑殺(しいさつ)だからね。弟って存在がどれほど必要でどれほど厄介か、兄上たちは言い聞かせられ、体験させられてきたと思うよ」


担がれたらその気がなくても危険になりうる。今はその気がなくてもいつか気が変わるかもしれない。


「そんな面倒なもの、真っ先に滅ぼされて当然だと思っていたよ」


英雄は。このひとは。

御伽噺の登場人物でも、苦しみを知らない機械人形でも、剣術に秀でた知らない誰かでもない。簡単に消費できるような偶像ではないのだ。


ルークさまは、英雄と呼ばれる、強がりで生真面目な、ただのひと。


そのひとに、お前は英雄だろう、すごいのだろう、国を守れと強要することなんて、どうしてできるだろう。

忌子だろうと強要されても、わたくしは呪えなどしないように。


いくら褒め称えても、いくら戦果があっても、このひとが死線を潜り抜けたことに違いはない。


敵国ではひとごろしとそしられる。ただの言い換えだ。戦う一瞬一瞬の代償に変わりはない。


……おそらく、このひとが抱える恐怖にも、何も変わりはないのだ。
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