あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
その、赤黒く血濡れた手に触れたかった。


「神は、ひとを選びません。忌子だからといって、わたくしだけを儚くしようとも、生かそうともなさいません。今回は偶然生きることになった、というだけのことだと思っています」

「そうだね。そうだろうね」


穏やかに頷いたルークさまは、ふわりと笑った。


「あなたというひとは、私という者は、困った立場にいるね」

「ええ、ほんとうに」


お互いに笑い合う。たぶん、わたくしたちは生きることにおいて、似たもの同士だった。


「ああ、そうだ。忘れるところだった。ただいま戻りました」


予想外の話題に目をしばたたく。なんとか反射で返した。


「お待ち、しておりました。ご無事で何よりです」


あまりにもぎこちない返事に、ああもうあなたは、と喉を鳴らして。


「ただいまを真っ先に言うと、言ったでしょう」
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