あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
多くの仲間を失いながら、冷えた体温にそっともう動かない瞳を閉じさせながら、泥にまみれて生きてきたこのひとが、唯一守れそうだったものが、きっとわたくしなのだと思う。


だから、こんなに守ろうとしてくれるのだろうと思う。


「私では、あなたの生きる理由には足りないだろうか」


足りないはずがなかったけれど、そう答えていいはずもない。


「あなたの生きる理由を預けてほしい。私は、あなたがほしい」


懇願が降る。


「アンジー。アンジェリカ。どうか聞いてくれ。どうか私の願いを命令に成り下げないでくれ」


何度も。何度も。


「私はあなたを愛している。それだけだ」

「……わたくしは呪われております」

「素敵な言祝ぎ(ことほぎ)をありがとう。おかげで無事だった」

「あれは呪言(ことほぎ)ですわ」

「いいや。確かに言祝ぎだったよ」


ああ、と思った。あんなひどいことを言ったわたくしに、やはりこのひとは、あのときも今も変わらず、あなたは優しいと笑うのだ。


ほんとうに優しいのはあなたこそでしょう。


優しくてうつくしくて、聡明で、懸命なひと。
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