あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
うつくしい花が咲き乱れる頃、二人で物静かな庭園に出かけた。


華やかな赤い花を見て、「あなたの色だな」とふいにルークさまが呟いた。


ええ、と頷きながら、このひとは、宝石でも、服でもなく、花を見てわたくしを思うのか、と何かがすとんと胸に落ちた。


こんな綺麗な花を見て。わたくしを。


そういえば、いつも渡される花にはどれも、「あなたに似合うと思って」「あなたを思い出して」「あなたのお屋敷のカーテンに合うと思って」などと、こまやかで優しい理由がついていた。


私に花はわからないけれど、と以前言われたのを思い出す。


でも、ルークさまがご存知なだけのお花より、ただ季節にふさわしいお花より、甘やかな花言葉のお花より、わたくしのことを考えて選んでもらえる方が嬉しい。


ああ、好きだわ、と思った。ずっと好きだわ、と思った。


「ルークさま。わたくし、生きる理由をあなたさまに預けてもいいでしょうか」


渡すのではなくて、捧げるのでもなくて、預けるの。


「それは、あの返事ととってもいいだろうか」

「ええ」


そうか、と優しく笑ったルークさまが、ありがとう、と手を引き寄せる。


「しあわせになろう」

「はい。しあわせになりましょう」


土地は荒れ果て、民草は(かつ)えて喘ぎ、乾いた日差しが照る。それでも、守りたかったものは、手放さずにすんだ。


柔らかな風が吹く。


呪われ令嬢と呼ばれたわたくしは、力もなく、呪えもせず、けして役には立てなかったけれど。

それでも、このいとしい場所に、柔らかな風は、明日も吹くのだ。


「私はずっと、あなたの騎士になりたかった。せめて英雄になれたならと思っていた」

「いやです。おなりにならなくてよかったわ」

「えっ」

「わたくしの騎士と言うより、わたくしのルークさまと言う方が素敵ですもの」


あなたらしいな、と彼が笑った。すっかり馴染んだ微笑みだった。




Fin.
< 63 / 64 >

この作品をシェア

pagetop