あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「……大変申し訳ございません、わたくしはあなたさまがどなたかは存じませんけれど、旅のお方でしょうか」


ある程度身分がある、遊学中の方なのか。


この国の人ならば、身分にかかわらずわたくしが何者か知っている。


特に上流階級の方の間では、こういう宴の際は大抵庭園に逃げ込むことも有名で、わたくしが参加しているときは庭園にいる令嬢に絶対に自分から声をかけない。

間違ってもあの(・・)公爵令嬢と関係を持ってはいけないからだ。


わたくしにはもう随分前から、まことしやかに囁かれてきた噂がある。


魔女。忌子。肉親にまで見放された、麗しくも恐ろしい、呪われ令嬢。


わたくしが呪われ令嬢だと知ったら、誰しもがすぐさま背を向けた。世話を言いつけられている者たちまで。


この国ではみな、明るい髪色と瞳を持って生まれてくる。黒は邪神に魅入られた証であるとされ、忌み嫌われてきた。


そういう神話さえあるのだから、黒髪の子どもがが忌子と言われるのは必然だった。


中には邪神の影響や降臨を恐れ、その場で殺してしまう家もあるほどだ。


わたくしは母が懇願したために何とか殺されなかったけれど、その母も最後までわたくしを生かしたことを後悔し続けていた。
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