あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
わたくしは黒髪に赤い瞳をしている。


黒髪は父の色でも母の色でもないけれど、瞳の赤は母譲りの色。母にとっては不幸なことに、わたくしが母の子どもであることは確かだった。


母はとても儚いひとだったらしい、とだけ知っている。


忌子ゆえに当然幼い頃から隔離されてしまって、あまり母のことを覚えていない。容姿のせいでお母さまと呼ぶことさえ許されなかった。


母は、日に焼けると炎症するからと、肌を極力隠して年中室内にこもっていた。


まるで霞を食べて生きているかのような、消え果てそうな雪を思い起こさせる、線が細くて小柄なひとだった。


しんしんと積もる雪に似た白銀の髪に、高価な宝石と見紛う大きくてうつくしい赤い瞳。


あまりに綺麗で儚くて、物語に出てくる妖精のような母は、わたくしが幼い頃に心を病んで亡くなった。


もともと出産で体調を崩していたところにいろいろが重なって、耐えきれなかったらしい。


忌子を産んだことを周囲も自分も強く強く責めていたのだと、人伝いにそれだけ聞いたのは、葬儀が終わった後のこと。


そうして父親である公爵は、娘を遠ざけるようになった。


広大な領地の外れの屋敷に閉じ込められても、どうすることもできなかった。
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