クールな同期と熱愛はじめ
足がもつれて、桜木くんの胸に抱き込まれる格好になる。大きく弾む鼓動。
そして次の瞬間、私の横を車が猛スピードで走り抜けていった。なにが起きたのか、すぐにはわからなかった。
桜木くんの咄嗟の行動に放心状態の私。
「どこ見て歩いてんだよ!」
桜木くんから激しい叱責が飛ぶ。
目の前の信号は赤だったのだ。彼に引き留めてもらわなかったら、確実に車に轢かれていただろう。
「……ごめんなさい」
「ったく、妙なことばかりに気をとられているからだ。普段は前しか見えてないくせに」
桜木くんが苦々しい表情で呟く。
私が体勢を整えると、彼は私からサッと離れた。
ついさっき乱れた脈が、加速度をつける。事故に遭っていたかもしれないという恐怖というよりも、桜木くんの咄嗟の行動が引き金になっていることは誤魔化しようがなかった。
私の肩先を掴んだ彼の手の強さ。逞しい胸板の感触。それらが私の意思に反して心拍数を高めた。