クールな同期と熱愛はじめ

「それって、いつ決まったことだったんですか?」

「一週間くらい前だったか」


嘘でしょ……。それじゃ、あの写真集を私にくれたときには既に退職が決まっていたんだ。

全身から力が抜けていく。椅子に背中を預けて、そこから動けなくなってしまった。

部長が席に戻ってひとりになると、スマホを取り出して桜木くんの連絡先を呼び出す。
ところが、聞こえてきたのは信じられないメッセージだった。

“この電話番号は現在使われておりません。もう一度お確かめになってから……”

スマホを耳から離し、膝の上に置く。
なにが起きたのか、すぐに理解できない。
わかっていることは、桜木くんが会社を辞めたこと。それから、彼の電話番号が解約されているということだった。

定時の十七時半になるのを待ち、急いで会社を出る。
部長から話を聞いてからというもの、嫌な予感がずっと私の胸の中を渦巻いていた。

もしかしたら桜木くんは……。

気持ちばかりが焦る中、彼の部屋のインターフォンを押す。ところが、なんの応答もない。それどころか、部屋の中から人が住んでいるような気配すら感じないのだ。

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