クールな同期と熱愛はじめ

その期待を何度裏切ってきたことか。
でも、まだ負けが決まったわけじゃない。
今度こそ、桜木くんではなく私を選んでもらうのだ。

部長の言葉に「はい!」と元気よく返し、私も自分の席へと戻った。

依頼書には“ペットと快適に暮らせる”というコンセプトの他に、光をふんだんに取り入れられるリビングが要望として書かれていた。
家族構成の欄には、男性らしき名前が一名と小型犬が二匹とある。

犬と心地よく暮らせる家か……。
それにしても、人と犬二匹で七十坪とは随分と大きいじゃないか。しかも、場所は都内でも有数の一等地だ。

年齢は三十二歳。いったいなんの職業に就いている人なんだろう。


「悠里」


設計依頼書と睨めっこをしていると、小声で私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げてみれば、それは胡桃だった。


「まだかかりそう?」


遠慮がちに聞く彼女を見て、今夜の約束のことを思い出した。
今朝、通勤電車の中で『気になるお店があるから一緒に』と誘われていたのだ。
咄嗟に見た腕時計は退勤時間を十五分過ぎている。


「ううん、すぐにいけるよ」


急いでデスク周りを片づけ、パソコンをシャットダウンした。

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