クールな同期と熱愛はじめ
◇◇◇
胡桃に先導されるようにして着いたのは、オフィスビルに囲まれた中、埋もれるようにして建つ平屋の小さな店だった。
外壁にはツタがびっちりと巻きつき、下手をすればそのうちドアも浸食してしまうんじゃないかと思うほど。開発の立ち退きで取り残されたような、ちょっと心許ない風情だ。
看板には【多国籍料理 オアシス】とある。
「ね? なんか気になる感じでしょう?」
ドアに手を掛けた状態で胡桃が私を振り向く。
「う、うん……」
気になるというか、心配になるといった方が近いかもしれない。
どんな料理が出てくるんだろう。
「開けるよ? いい?」
かわいらしく小首を傾げて胡桃が確認する。
ここまで来て“ダメ”もないだろう。親指と人差し指で丸を作ってゴーサインをだした。
ドアを開けるなり聞こえてきたのは、「いらっしゃいませーい!」と語尾を上げた威勢のいい声だった。