クールな同期と熱愛はじめ
「桜木くんもこっちなの?」
「そっちこそ」
お互いに眉をひそめた。
同じ電車に乗り込む私たち。
電車内は午後九時を回っていることもあって、空席が目立つ。空いている席に私たちは並んで座った。
本当ならなにかしゃべって、胡桃の言うように理解を深めなくてはならないのに、なにを話したらいいのかわからない。
桜木くんの方もだんまりを決め込んだまま、どんどん駅が通り過ぎていく。
さすがに降りる駅は違うだろう。
あと五駅、四駅、三駅とカウントダウンして、いよいよ降車駅になった。
「それじゃ、桜木くん、私はここで」
そう言いながら立ち上がると、桜木くんまで立ち上がった。
「お見送りなんかいいから」
わざわざドアまで送ってもらわなくてもいい。
“座って”とばかりに右手で椅子を指すと、「俺もこの駅」という信じがたい言葉が桜木くんの口から飛びだした。