クールな同期と熱愛はじめ
四階と五階のフロアは四人家族でも住めるようにと、一部改装中だ。たまに土曜日にも工事の音が聞こえることがある。
いよいよこれで本当に“さよなら”だと思った矢先、信じられないことに桜木くんがそのマンションのエントランスへと吸い込まれていった。
――嘘でしょ!?
咄嗟に駆け足になる。
カツカツカツとヒールの音を響かせて桜木くんに近づくと、彼は少し驚いたような顔をして振り返った。
「……なんだ、宇佐美か。おどかすなよ」
「桜木くん、ここに住んでるの!?」
不機嫌な様子で眉をひそめる桜木くんに対して、私は掴みかかる勢いだった。
一拍おいたあと、彼が「そうだけど」と言う。
体から一気に力が抜ける。放心してしまった。
桜木くんが、私と同じマンションに住んでいる。示し合わせたわけでもないのに、そんなことってあるんだろうか。
人数合わせでいった合コンで会い、たまたま入った店で会い、今度は同じマンションだとは。
“偶然の神様”も、もう少し手を抜いてくれてもよさそうなものだ。