クールな同期と熱愛はじめ

一オクターブも高い声が出てしまった。


「一ヶ月前に越してきた」

「一ヶ月前?」


今まで気づかなかったのはそのせいか。
私はここに住むようになって二年経っている。
同じような時間帯に出勤しているのに、その間一度も顔を合わせないのは不自然だ。


「信じらんねー」


桜木くんは片手を腰にあて、もう片方の手で顔を覆った。


「それはこっちのセリフ。私の方が先だったんだからね」

「早い者勝ちかよ」


指の隙間から私を睨むものだから、ぐっと言葉に詰まる。


「ともかく俺はいくから。おやすみ、ウサコウ」

「だから――あっ、ちょっと!」


素早くエレベーターに乗り込んだ桜木くんが、シースルーの扉の向こうで手を振る。
笑った顔が、どこか勝ち誇ったようだった。

< 55 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop