クールな同期と熱愛はじめ
「宇佐美さん、お先にね」
そう声をかけられ、ハッとしてデスクで顔を上げてみれば、部内は私の頭上以外の照明が落とされ、残るは私ひとりとなっていた。
腕時計で時間を確かめると、午後八時を過ぎている。お昼から戻り、トイレにもいかずに七時間も没頭していたことになる。それほど夢中になっていたというのに、どちらかというと心地よい疲れだった。
明日もまた仕事だし、私もそろそろ帰ろう。
大きく伸びをしてパソコンをシャットダウンした。
ところが清々しい気分は、会社のエントランスから出たところで一気に憂鬱なものへと変化する。雨が降っていたのだ。それもパラパラと小雨ではなく、まとまった雨だ。
今朝、カーテンを開けて見えた空に雨の気配がなかったものだから、天気予報を確認せずに自宅を出てきてしまった。
傘がない。仕方ない。駅まで走ろう。
会社から駅まではビル街を歩いて五分足らず。なんとか軒先を選んで走り、思ったほど濡れずに電車に乗ることができた。
ハンカチで少し濡れた髪と肩先を拭い、電車のドア付近に立つ。車内は私のように傘を持たずに濡れている人が何人かいた。
私だけじゃなかったことにちょっとホッとする。