部長が彼になる5秒前
「残業はしていないが?」
不思議そうに聞き返される。
さらに知るのが怖い。
怖いけれど、私の知らない部長が居ることのほうが嫌だった。
「昨日の夜、見ちゃったんです。
部長が、女性と歩いてる所。」
どうか、彼女じゃありませんように……
そう願ってしまう私は、やっぱり卑怯者なのかもしれない。
正直に打ち明けた私に、
「ああ、あの女性は、
……佐野もよく知ってるじゃないか。」
思い出したように、部長が頷く。
え。
「誰……?」
全く検討がつかない。
頭の中で、あの女性の顔を再び思い浮かべる。
言われてみれば、どこかで会ったような…