部長が彼になる5秒前

それからの花火は純粋に楽しかった。
色とりどりの光線が眼の前に現れ、夏の夜の香りと、煙の匂いが入り交じる。

私は、一先ず告白することも忘れて、部長との空間に全てを委ねた。

ただ、時折見せる彼の微笑みや、落ち着いたトーンで笑う声に、好きだという気持ちは降り積もる。

その重なりを感じながら、光の粒に見とれていると、
とうとう残る花火は2つになっていた。

「もう、終わっちゃいますね。」

そう言いながら、線香花火を1本ずつ手に取る。

2人でしゃがんで、同時に火を灯す。
すぐ傍にいる部長を意識し、高鳴る鼓動を抑えながら、線香花火を見つめた。


途中、ちらっと横目で見ると、部長は真剣な瞳にその燃え盛る花を映している。
その表情に不意にドキッとして、慌てて眼の前の花火に視線を戻す。
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