部長が彼になる5秒前
Ⅵ 正面から見えるのは
やがて、
水瀬部長の線香花火が、
雫のように地面に落ちた。
お互いを照らしていた灯火は、もうどこにもない。目の前にいる彼を照らすのは、夜空の月明りと、少し離れた電灯の微かな光のみだ。
夏の夜風が2人の間を吹き抜ける。
私は、その空気を胸一杯に吸い込んだ。
「……部長、お願いがあるんです。」
突然話を切り出した私自身、手の震えは治ることを知らず、燃え尽きた線香花火を握り直す。
「部長との、"仮"恋人の関係を、
もう……終わらせて頂きたいんです。」