部長が彼になる5秒前
「まったく……君は。」
耳元で部長の声がする。
さっきまでの遠い距離が、一瞬にしてゼロになり、私の思考は追いつかない。
「………僕も、朱里が好きだ。君が僕を思うずっと前から、君のことを想っていた。」
そう返事をしながら部長は、私の身体をゆっくり離し、私を見つめる。
月に照らされた彼は、今まで見た中で1番優しい瞳をしていた。正面から見る彼の表情は、想っていた以上に情熱的で、私の心を捕らえる。
「朱里……。今日からは、本当の恋人だ。」
真剣な表情でそう告げると、さっきより強く私を抱きしめる。
その温もりを感じながら、
私も、溢れる想いを伝えようと彼の背中に腕を回した。