部長が彼になる5秒前
残業も度々あったし、社食でのランチでは、
絢に、随分弱音を吐いてしまった。
「水瀬チーフに嫌われるのかな…私。」
そんな風に考えてしまうほど、
チーフは冷徹で、仕事の鬼だった。
「まぁ、それだけ鬼も
朱里に期待してくれてるってことよ。」
絢はそう励ましてくれた。
友人の応援と、何より、
水瀬チーフのダメ出しの甲斐あってか、
『Venus』は、今では
賢仁社の、代表的雑誌になっている。
私の入社当初は、
まだ毎月刊行を始めたばかりだったが、
その頃から、予想以上の売上を記録していた。
どれも水瀬チーフの、尽力の証拠で、
それを見せつけられる度、
自分の無力さを痛感し、
新しい企画書を、震えながらチーフに提出し、直される日々が続いた。