部長が彼になる5秒前
「……朱里。」
私の名前を呼ぶ部長の表情は、少し余裕が無いような熱を帯びている。
「……水瀬部長。」
そう呼びかけると、彼の手が私の頰に触れる。
そこに自身の手を重ね、私は言った。
「まだ、定時を過ぎてません。」
それを聞いた部長は驚きで目を見開き、時計を見た後、ふっと軽く笑う。
定時まで、あと5秒。
「……全く、君には敵わない。」
初めて想いを伝えたあの日と同じ顔で、ゆっくりと彼が近づく。
そして、互いの唇が重なったとき、
時計の秒針が定時を告げた。