部長が彼になる5秒前
4年前の春。
賢仁社 雑誌企画課チーフに入社4年目という比較的早い段階で就任した自身は、同時に初めて新入社員の教育係という立場を引き受けることになった。
そこで出会ったのが、彼女だった。
「佐野 朱里です。宜しくお願い致します!」
元気良く挨拶した第一印象は可もなく不可もなく。ただ、女性社員ということで、当時力を入れていたファッション誌『Venus』の即戦力になりそうだと考えていた。
仕事に関しては、真面目で一生懸命。任されたことは、責任を持って遂行する。だからこそ彼女には期待をかけた分、厳しく接した。
そうするのには、個人的な理由もあった。
"異例のスピード出世 "
影で自分がそう言われていることは知っていたが、新チーフに就任したことによる、周囲の風当たりは強い。
" 創刊して間もない『Venus』を、若輩者に任せられる訳がない。"
そう噂されていたことも知っていた。
しかし、そんなものを恐れている暇など無かったし、何より雑誌企画は楽しかった。