部長が彼になる5秒前

その楽しさを知って貰いたくて、『Venus』企画チームには力を尽くした。

周りなんて気にしない。
必ず僕が、この雑誌を守ってみせる。


そういった思いと同時に、
"若輩者"と見くびられているチーフに指導されている佐野が、自分以上に期待されないのではないかと心配だった。


佐野を、立派な社員にしてみせる。

その熱意を持って、1年間指導に当たった。


「面白くない。」
「やり直し。」

そう言って、何度企画書を返しただろうか。

その度に君は、俯きながらも再び顔を上げて真っ直ぐに前を向いてきた。企画案も、興味深いものが増えた。

ああ、大丈夫だ。
自分の指導は間違っていなかったんだ。

ひたむきに付いてきてくれた彼女に感謝しながら、今後の働きを楽しみにしていた矢先。
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