部長が彼になる5秒前
もう"チーフ"ではない。
心の中でそう呟いて、
最後に一度だけ、閉まるエレベーターを見送ろうと振り返った。
……その瞬間だった。
閉まる直前のエレベーターの隙間から、
俯いたまま、涙を拭う彼女が見えたのは。
1年間、どんなに厳しい言葉をかけても、ひと粒の涙も見せなかった佐野が、初めて泣いている所を見た。
彼女は、その姿を僕に見られたなんて気づいていないだろう。
ただ、今までも、こうして隠れて涙を流したことがあったのだろうかと思いながら、閉ざされたエレベーターから目が離せない。
君はまだ知らない。
これがきっかけで、僕の脳裏から君が消えないことも、
それが恋だと自覚することも。