部長が彼になる5秒前
"仮"恋人がスタートして1ヶ月。
その期間で、部長が私に対してしてくれたことは山ほどある。
「私の朱里への指導が下手なのか…」
そう言って溜息を漏らす部長は、必ず残業中であっても2人きりの時は、私の名前を呼ぶようになった。
「それとも、君が何か抑えているのか?」
尋ねながら、私と1歩距離を縮めた部長は、
私の手を取り、ぎゅっと握った。
仮恋人の間、こんな風に私は、ドキドキさせられっぱなしだ。
ただ、それが記事に直結するかと言われると、また別の問題だった。
「こんなことをされて、ドキドキしました」なんてエピソードがツラツラと雑誌に載っていたとしても、ただの惚気話でしかないし、面白くないだろうと思う。
そう思ったことを部長に正直に言えば、
「だから佐野は頭が硬いんだ。」
と即答された。