部長が彼になる5秒前

……もう、終わっちゃうんだ。
心の中でそう呟いた時、

「着いたぞ。」
と部長が言って、こちらを向いた。

外を見れば、いつもの駅前ロータリーが夕焼けに染まっている。
その夕陽に照らされながら、私はあることを思いついた。

すぐさま、左手の腕時計を確認する。

よし、定時は過ぎている。
"仮"恋人になった部長に、小さな声を届ける。


「……要さん。
またどこか、一緒に行ってくれますか?」

今、どうしてもそう言いたくなった。
自分でも驚くほど、その言葉を紡ぐ私の声はひどく切実だった。








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