部長が彼になる5秒前
会議室で初めて名前を呼んだ時と同じように、それを聞いた彼の顔は赤く染まり、夕暮れに重なる。
「……そうだな、行こう。」
2人きりの車内に、その優しい返事が響く。
その響きを受け止めた私は、充実感に包まれ、荷物を持ってドアを開ける。
「2日間、ありがとうございました!」
この僅かな期間で、少し甘えられるようになった上司に向かって、頭を下げた。
「こちらこそ。」
そう言って車に乗り込んだ部長は、一瞬こちらを見てから、エンジンをかけた。
沈みゆく夕陽と共に、去っていく車を見送る。
"最後のは、上出来だった。 水瀬 "
帰宅後、出張中に来たメールに目を通していると、部長からそんなメールが届いた。
上出来で何よりです。
ほっとするような、気恥ずかしいよな気持ちを抱きしめて、私は眠りについた。