along
花束の贈呈があり、連盟常務理事による乾杯の発声でパーティーが始まった。
予想通り、直はたくさんの人に囲まれて、あちこちに挨拶して回っている。
居場所のない私はやっぱり一般ファンに紛れつつ、お寿司だローストビーフだと高級な料理を眺めて歩いた。
「ほらほら、遠慮してないで食べなさい。余ったら捨てられるだけなんだから」
無造作に、しかしバラエティー豊かに盛りつけられたお皿をグイッと突きつけられる。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
お皿をくれたのは、くたくたのスーツを更に着崩したおじいちゃんだった。
私の反応を待つことなく、次のお皿に料理をどんどん盛っている。
この人も直のファンか関係者のはずなのに、パーティーにはさして興味ないように見える。
せっかくなので気になっていたローストビーフを遠慮なくいただいた。
「お嬢さんも将棋が好き?」
タイミング悪くおじいちゃんに質問され、口一杯に入っていた柔らかなお肉を、もったいなくも素早く飲み込んだ。
「はい、まあ。自分では指せませんけど」
好きか? と聞かれると悩ましいけど、プロ棋士を尊敬はしている。
自分でもいつかもう少しわかるようになりたいと思う。
おじいちゃんは哀れむように眉を下げた。
「それはもったいない。是非やってみなさい。楽しいから。ほら、食べて」
「はい。少しずつ覚えたいと思ってます。……いただきます」
マグロのお寿司を口に入れた途端に、また質問が来る。
「有坂を応援しているんだね?」
さすがにすぐは飲み込めないので、うんうんと首を縦に振った。
「よかったねえ、タイトル取れて。取れるときに取らないんだもの。ライバルにも先越されるし、みんな心配したんだよ」
おじちゃんもそんなこと言ってたっけ。
何度もタイトル挑戦しながら、結局一つも獲得できなかった棋士も多いのだそうだ。
「本当によかったですよね」
おじいちゃんは自分では食べずに日本酒をくいくい飲んでいて、私にばかり手振りですすめてくる。
そのペースで私もどんどんお皿を軽くしていった。