along
「役に立ってよかった。本当は婚約指輪にしたかったけど、そっちは賞金で買うことにしたんだ」
もののついでに大事なことを言われて、 私はものすごく動揺したのだけど、
「そうそう、それ。その話なんだよ」
と社長が、壊れたイスにドスンと座ってため息を投下した。
「うちの息子がさ、『紹介したい人がいるから近々連れて行く』って言ってきたんだ」
社長以外の全員の視線が一斉に頼子ちゃんに集まるが、彼女は大きな目を更に見開いてブンブン首を横に振っている。
本人も聞かされていない話らしい。
俯いていた社長はそのことには気づかずに、ギシッと背もたれに寄りかかった。
「あいつの選んだ人だから歓迎してやりたい気持ちはある。だけどこの会社の未来を託す人でもある。そんな簡単に考えられなくってさ」
この場で言えることなんて限られているので、おじちゃんと私は曖昧な援護を口にした。
「いや、むしろ今より安泰じゃないか?」
「社長のことを“ご隠居”と呼ぶ心の準備は、すでにできてます!」
「結婚の挨拶って、やっぱり親が先なんですか? 師匠とどっちに先に紹介するべきなんだろう?」
あろうことか社長は、直が発した一番不的確な発言に反応した。
「そこは親が先じゃないかな?」
「でも師匠の家の方が近いし、『会いたい』ってしつこいから、次の休みに連れていく約束させられたんですよね」
娘さんの結婚が決まったばかりのおじちゃんも、私を無視して冷静な意見を出す。
「挨拶するなら、式や入籍日の予定を決めてからがいいと思う。そこ曖昧だと信用に関わるよ。場所押さえるのも時間かかるしね」
式や入籍以前の問題が残ってますー!
「次に就位式するなら、その時には入籍していたいんです」
「今可能性あるなら王将? 竜王戦も惜しかったけどね」