along
いやいや、それより! と口を挟みたい私に気づかず、直はガックリと肩を落とす。

「俺、竜王戦と相性良くないんですよね」

「いやいや、1組優勝は立派な成績だよ」

「挑戦できなきゃ意味ないです」

あれ? 結婚は?
話の方向はどんどん将棋に傾いていく。

「そろそろタイトル戦始まるよね。どうなるかなあ」

「防衛するんじゃないですか? 市川君、俺と逆で竜王戦にはめっぽう強いから」

私たち四人を置き去りにして、将棋の話はさらに深みにはまっていく。

「同い年だっけ? 挑戦してたら面白かったのに。勝率は有坂先生が上?」

「直近の直接対決では分が悪いです」

「棋風も全然違うもんね」

「あんなハイリスク・ハイリターンの派手な将棋、普通は怖くて指せないですよ」

「将棋より会社の未来だよー」

割って入った社長を、私はイスごと押しやった。

「いやいや、それより私の未来でしょ! 何も聞いてないんだけど!」

直はようやく思い出したように、私を見た。

「あ、師匠のことね。師匠、真織のこと気に入っちゃって、早く会いたいってうるさいから━━━━━」

「師匠? 私会ったことあったっけ?」

「就位式で会ったでしょ?」

師匠なら当然いただろうし、そういえばスピーチもしていたような気がする(聞いてなかった)。

「どの人かわからない」

「ナンパしていっぱい食べさせた人」

ああーっ! あのおじいちゃん!! ただの将棋好きの好好爺かと思ってた。

「そもそも結婚って何?」

「え? しないの?」

「え? するの?」

「鈴本さんはうちの会社と結婚したんでしょ?」

「社長、今その話はしないで!」


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