along
年間勝率一位、年間対局数一位、年間勝数一位。
それでも直は、何を積み重ねても納得できないみたいだった。
相手を投了に追い込む時でさえ、直の目はもっと先を見ている。
どんなに周りが直を強いと認めても、授与されるような栄誉じゃない。
どんなに勝数を増やしても〈勝つべき時〉に勝たなければ届かない。
強いだけじゃ足りない何か。
名人まではあと一歩。
そのあと一歩は、直の歴史を塗り替えるほど大きく、遠い。
羨むような経歴を積み重ねていても、直には直の挫折があるのだ。
「大丈夫?」
確かにおじちゃんに聞くより確実なので、思い切って聞いてみた。
普段の直に変化はなくて、ゴロゴロ寝転んで黒ゴマスティックをくわえながら詰将棋を解いていた頃合いで。
「へ? 何が?」
「えっと、将棋。なんか、最近、変わった?」
漠然と聞く私に、直ものそりと起き上がって黒ゴマスティックをカリカリ食べながら考える。
「うーん、別に何も変わってないけど。でも」
再び寝転がって詰将棋に目を落とす。
「なーんか負ける気しない」
もちろん時々負けているんだけど、それは直の自信を揺らがすものではないらしい。
「真織」
立ち去りかけた背中を射抜くような声がかかった。
振り返ると直は相変わらずダラッと寝転んだままで、それでも目だけは揺れてなかった。
「見ててね。俺を」