along

恐らくみなさんが思い出す爪楊枝は基本的に食品などを刺すために使うもの。
こけしをイメージして付けられている飾りの部分は、こんな細かい細工もできますよーと技術をアピールするために施されたのが始まりだとか。
従ってあれは日本特有の形状だったのだけど、今となっては同じようなものが中国から安価に輸入することも可能になって、うちみたいな会社が存在する。
ちなみに歯に挟まったものを取る用の爪楊枝は別の形状をしていて……なんて話はどうでもいいか。

お昼は各自自由のはずなのに、なんとなく全員集合することが多い。
バタバタと階段を駆け上る音がして、おじちゃんが飛び込んできた。
一階が倉庫、二階が事務所になっているのだ。
おじちゃんは愛妻弁当を広げるのももどかしげにインターネットを立ち上げる。
そのデスクにコーヒーのマグカップを置くと、パソコン画面から目を離さずお礼の代わりに片手を上げた。

「今日は何?」

「竜王戦第三局」

「ふーん」

一応聞いてみたものの、これは単なる挨拶代わり。
おじちゃんは大の将棋ファンで、なんとか戦だ! かんとか戦だ! と熱心に観ている。
将棋を観るために職場のパソコンで有料サイトを契約するほどの猛者だ。
ちなみに料金はおじちゃんの給料からしっかり引かれているらしい。

私には静止画にしか見えない、大人ふたりが向かい合って座っているだけの映像を流し見て、頼子ちゃんにもコーヒーを渡す。
彩りも綺麗な手作り弁当を広げる彼女の横で、私は鮭フレークをぶちこんだだけの、お手製というにもはばかられるおにぎりにかぶりついた。


あれからふた月近くが経過している。
直からはほぼ毎日、『お仕事終わった?』とか『今日の晩ご飯は何だった?』とか、そんなどうでもいいメッセージが届く。
それに対して私も『今日は少し残業して今終わったところ』とか『二日続けてのカレー』とか返している。
少し面倒臭いけど、このくらいは“彼女”の義務だ。
それで誘われれば週に一回程度食事に行く。
昨日も直の方から『水曜日は空いてる?』と連絡が来たので、明日会うことになっている。
でも、ただそれだけだ。

「真織さん、今週の金曜日でもいいですか?」

「うん。私は大丈夫だよ」

「他のみんなも都合いいみたいなので、金曜日でセッティングしますね」

「うん、ありがとう。幹事なんて任せてごめんね」

食べる手は休めず、携帯のスケジュールに『歓迎会』とメモをする。

「頼子ちゃんは大丈夫なの? デートとか」

「今週は出張でいないんです」

「はあ~忙しいね~。さっすが大手の営業マン!」
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