along
『次の土曜日、どこかに出掛けない?』と誘って、『え……なんで?』と答える恋人などいるのだろうか?
恋人と週末にデートするって何の不思議もないはずなのに。
緊張しながら電話を握りしめた手に、今度は苛立ちが加わる。
『嫌なら別にいい』
『待って! 嫌じゃない! 行く! 行きます! 行きたいです!』
ペースができて定着したものを変えるって、エネルギーがいる。
例えばバッグの中で鍵や携帯をしまう位置ひとつとっても、「ちゃんと整理しよう」と変えたはずなのに、数日後には元の位置に戻っていたり。
直との付き合いもそんな風に「誘われたら仕事終わりに食事する」というペースで私の生活に組み込まれていた。
何もしなければ、永遠にこのままの関係なんじゃないか、と思うほど発展する気配がない。
それでつい、誘ってしまったのだ。
じゃあ、私自身がどうしたいのかと考えると……考えると……考え……それは、また今度でいいや。
『どこか行きたいところはあるの?』
と聞かれても、何しろ思いつきなので特にない。
たいていのところはひとりで行けるし、ふたりじゃないと行けないところなんて……。
「そういう観点で決めただけで、深い意味はないのよ」
「うん」
「ひとりで焼き肉だろうが、カラオケだろうが行けるんだけど、ここはちょっと厳しいというか」
「そうだね」
「友達と来ればいいんだけど、なかなかタイミングもなくて」
「そうなんだ」
「……似合わないと思ってるでしょ?」
「思ってないよ。ちょっと意外ではあったけど」
「ほら! やっぱり思ってる!」
「違う違う。俺を誘うとは思ってなかっただけ」
テーマパークに来てしまいました。
理由は前述の通りです。
だけど、言わなかったこともある。
本当は来たかったのに武は並ぶのが嫌いで付き合ってくれなかったこととか、直ならいいよって言ってくれる気がしたこととか、直となら長い待ち時間も退屈しないんじゃないかなって思ったこととか。