along
『どうするの? 仮初め彼氏に 片想い』
あ、季語が必要なんだっけ?
えっと、
『どうしよう? 誘うに誘えず クリスマス』
いや、川柳に季語はいらないのか。
『クリスマス 彼氏がいるのに 一人きり』
結局季語入っちゃった。
手慣れたペースで検品に励みながら、脳内で道路標識より情緒のない川柳もどきを考えてしまうくらい、私はもどかしさに身を捩っていた。
直との曖昧な関係を進めたいと思っても、自分から誘う勇気がない。
普通に彼氏だったら「クリスマスはどうする?」ってお菓子を食べながらでも聞けるけれど、「私と直って付き合ってるんだよね?」と確認から入る必要がありそうなのだ。
社会人になると、なんとなーくイイカンジになって、さりげなーく食事の機会を作って、それとなーく雰囲気出して……ってお付き合いが始まるのだと聞いていた。
だけどそこにトラップが仕掛けてあって、マナーを無視して「私たち付き合ってるんだよね?」と確認してみると「え? 付き合ってないよ」と返されることもあるのだとか。
たけどまさか「付き合いましょう」「そうしましょう」って始まった相手に、再度確認が必要なんて、クレジットカードの登録並みの念の入れようだ。
検品を終えて商品をおじちゃんに引き渡してから事務所に戻ると、当の直からメッセージが届いていた。
『明後日、鰻食べに行かない?』
お財布を開いて、一万円札の数を数える。
単品だけなら五千円もあれば足りるだろう。
『行く』
送信してから違和感に気づいた。
明後日は十二月二十四日。
『イブに食事しよう』ではなく『明後日』なんて、直って何かを深く信仰していて、宗教が違うイベントはやらない主義なのか。
それとも、考えたくないけど、たまたまイブだっただけで通常のお誘いなのかもしれない。
頼子ちゃんなんて、御曹司(極小粒)が半年以上前から予約していたという、なんとかクルーズで豪華ディナーらしいのに。
きっと濃紺の小箱をパカッてされるに違いない。
対して私は鰻。
鰻はもちろん高級だし大好きだけど……鰻だ。
危ない、危ない。
絶対期待しない方がいい。
結局あらゆる確認ができないまま当日を迎えた私は、浮かれるな! という戒めに反して真新しいワンピースを着込んでいた。
私の中に潜む、飼い慣らせない野獣のごとき乙女が暴走した結果だ。
けれどアプリコットピンクのワンピースを着ている頼子ちゃんよりは地味に抑えたグレー。
乙女もそこは自重したようだ。